STEP5 M&Aの最終合意とクロージング

M&Aについて基本合意がなされ最終監査も終了し、いよいよM&Aの流れも、ゴールが見えてくる段階になりました。

これからが大詰めの段階で、息を抜き訳にはいきません。

今までは、買い手候補者と売り手の利害が価格を含め対立するものでしたが、基本合意が済み、概ね双方の合意がなされた結果、利害の対立からゴールに向けて双方が協力する段階に入りました。一気呵成に進める必要があります。

この段階になると、表明保証等の特有の用語が出てきて戸惑うこともあるでしょう。

 

・M&A 表明保証って聞いたことがない言葉だけれど、どんな意味があるの?

・M&A 金融機関に負うている社長の個人保証はどうなるの?

・M&A 全てを譲渡代金でもらうよりも役員退職金でもらったほうが有利だって聞いたけれど本当?

・M&Aで会社を売却しようと考えた時、取引先にも根回しは必要なの?

・M&A 従業員への告知は何時すればいいの?

M&A 表明保証とは

表明保証とは、買い手企業と売り手との間で締結されるM&Aに関する最終契約書の中に含まれる条項です。 

最終契約には、売買内容、表明保証並びに特定の約束が含まれます。 

表明保証は、売り手がM&Aの契約について「事実として開示した内容が真実かつ正確であること」を表明し、契約の相手方に保証するものです。 

簡単に言えば、「隠れた債務はありませんよ。」と表明して保証するものだと考えて頂いていいでしょう。

 

表明保証を要求されるものとしては以下のようなものが挙げられます。 

株主名簿に記載のない株主、簿外債務、保証債務、工場等の土壌汚染、対従業員との間の未払い賃金、未払いの時間外手当、未払い・未加入の社会保険、知的財産権の侵害問題等です。 

最終契約の前に、最終監査をするのに、なぜ表明保証などしなければならないのかという疑問がある人がいるかもしれません。 

最終監査は、限られた時間内に限られた資料に基づいて買収対象の企業を詳細調査するものですから、どうしても限界があります。 

しかし、株式を買収する場合、買い手企業は買収企業の債務等を全て引受け、リスクを負わなければなりません。

 

一定の限界のある調査で、全てのリスクを負うのは、買い手企業にとってあまりに酷です。 

そこで、株式の売り手は、調査内容について嘘・偽りはなく、隠れ債務などはありませんよと買い手企業に表明し、保証するものと考えて頂ければいいです。 

嘘・偽りや隠れ債務等がない限り、株式の売り手にとっては特段に問題となるような条項ではないのです。

 

他方、後になって嘘・偽りや隠れ債務の存在が明らかになった場合、売り手は買い手から損害賠償を請求されることになります。 

ここで、どこまで保証するのかという問題が出てきます。 

買い手企業は、できるだけ広く保証を要求するような契約書の草案を作成してきますから、売り手は弁護士からの意見を徴して、どこまで受け入れるのかについて決定するのが重要です。 

損害賠償により売り手は買い手企業に金銭債務を負うことになるので、余りに損害額が大きくなる場合は、M&Aによって会社を売却しなかった方が良いという結論になる場合もあります。 

その場合、損害賠償額の上限を定め、損害賠償額が一定額を超過するような場合、M&Aは当初から無効とする旨を契約書に入れておくことも選択肢一つになります。 

もちろん、嘘・偽りや隠れ債務があったことによってM&Aが破談になったことの責任は売り手側にあるので、その分の損害賠償をしなければならないことになる点には注意して下さい。

 

なお、心配な方は、表明保証の対象について、有効期限、最大負担額、免責事項、補償内容等について、弁護士から意見を徴して契約に入れ、明記してもらうように要求することです。

M&A 社長の個人保証はどうするのか?

大企業と異なり中小企業の社長は、会社の借入金の連帯保証をしている場合がほとんどです。 

M&A成立後には、会社を売却したのですから、すでに会社との関係は切れているはずです。 

それなのに連帯保証だけそのまま継続しているというのでは、安心して第二の人生や老後を過ごすわけにはいかなくなります。

M&A成立後に、社長個人の連帯保証の解除と差し入れた社長所有不動産の担保権を外すように買受企業との間の最終契約書に、「個人補償の解除並びに個人保有不動産の差し入れ担保の解除の保証」を、当然に要求すべきです。

 

売り手企業の社長の個人補償を外す話は、M&Aでは必ず出てくる話です。 

「株の譲渡金額に銀行等からの会社の借入金を加算した合計額」が買い手企業のとっては今回のM&Aの投資額となります。 

売り手企業よりも買い手企業の方が企業規模も大きく信用度も高いのが普通ですから、売り手企業の社長の個人補償を買い手企業側で外して肩代わりすることについて、銀行側にとっても問題は少ないでしょうが、確実かどうかは銀行と交渉してみないと何とも言えません。

 

そこでいつ外すのかという問題が出てきます。 これは買い手企業との関係もあります。 

買い手企業がM&Aのクロージング後に直ぐに行動に移してくれれば良いのですが、そう簡単にはいきません。

 

買い手企業から見れば、買収直後では、相手企業の状況の把握を行なっている時期です。 

なにも判らない状況下で、相手の言うなりに保証人の肩代わりを行なうわけにはいかないものです。 

相手企業の状況も解り、何も問題がなく、表明保証通りであることを確認してからというのが本音でしょう。

 

したがって、最終契約書には、個人保証を外す時期は、株式譲渡後、半年~1年が経過し、売り手企業に何も問題がないことを確認してからという条件を出してくることもあります。 

個人保証を外す時期は契約当事者間で話し合い、相互に納得できる時期に決定されることになります。

 

また、個人保証は銀行借り入れのみではありません。 

リース会社とのリース契約の連帯保証や、不動産賃貸借契約の連帯保証などもありますから、忘れずにいたいものです。

M&A 役員退職金の有効利用

M&Aでは株式の譲渡金額を現金でもらうよりも、役員退職金でもらった方が税制上、有利なことが一般的です。 

 

M&Aの場合、役員退職員は売り手企業が売り手企業を退任する役員に対して支払うものです。 

したがって、役員退職金を売り手企業が支払うことで、売り手企業の内部留保が取り崩されることとなるので、売り手企業の財務内容が悪化します。 

売り手企業の譲渡代金が役員退職金を支払った分だけ少なくなるからです。 

 

さて、役員退職金を退任役員に支払う点での注意点は以下の通りです。 

 

(1)役員として在職していた期間に対応するもの 

まず、役員退職金ですから、当たり前のことですが役員として在職していた期間に対応するものです。 

たとえ従業員として長くその会社に勤務していたとしても、その期間は役員の通算期間には含まれないので注意して下さい。 

 

(2)株主が複数いる場合 

売り手企業の社長が株を一人でも所有していた場合は役員退職金を支払っても問題は表面化しません。 

他方、株主が複数人いた場合、上記の通り役員退職金を支払ったことで売り手企業の譲渡金額が低くなることで、役員でない株主から不満が出る可能性があります。 

役員でない株主は、役員退職金がもらえない上に、譲渡代金が低くなってしまいます。 

役員でない株主は、手にすることができる譲渡代金が、会社が役員退職金を支払うことで少なくなってしまうという現実に直面させられるからです。 

 

(3)実質的に退職しているのか 

役員退職金として税制上の優遇措置を受けるためには、税制面の要件を充たす必要があります。 

M&Aの最終契約が済んで、株式が買い手企業に行ったというだけで、まだ社長として引退せずに継続して勤務している状況で役員退職金をもらうのでは、税制面の要件を充足していないことになります。実質的に引退している必要があるからです。

 

買い手企業の了解のもとで決定することになるのでしょうが、いつ役員退職金を払うのかという問題については、詳細は顧問税理士と相談の上で税法上の要件を充足させて決定すべきものです。 

M&A 主要取引先への根回しは、いつ行うべきか?

M&Aで会社を売却しようという意思決定は、最終的に大株主である社長が自分の判断で意思決定するものです。 

では、社長の一存だけでM&Aが決定できるのかというとYESでもありNOでもあります。 

なぜならば、会社はお客がいて初めて売上げを獲得し、利益を生みだせるからです。 

もし、主要な顧客がM&Aの事実を知り、取引中止を言いだしたら、会社の将来収益を大きく減らし企業価値を棄損させる可能性があります。 

場合によっては、買い手企業から、売り手企業の顧客が離れてしまったのなら、もうM&Aを実施する意味がないので、基本合意までに主要取引先の了解を得てきてもらいたいという要望が出されることもあります。 

特に、中小企業の場合、メイン得意先1社に売上高を大きく依存し顧客から抜けてしまうと会社の存続が危ぶまれるという事態が発生しかねません。

 

日本の商習慣では、影響力のある企業や人物には事前に根回しを行ない、了解を取っておくことがビジネスをスムースに行うための智慧と言えます。 

では、いつ根回しを実施すべきでしょうか。 

これはM&Aの隠密性とのバランスを図る必要があります。

 

余り早い段階でメイン得意先に報告ないしは相談すれば、顧客から秘密が漏れる可能性が高まります。 

顧客側からすれば、仕入れ先の資本関係が変わることは、不安感を感じる原因ともなるからです。 

この不安感を払しょくさせ、M&Aの実施が顧客にとってもプラスとなるようなイメージを作り出す必要があります。 

大手企業の傘下に入ることで、資本力が強化され、社内の人員、設備を更新できるようになり、今まで以上に顧客満足度を向上させることを可能にさせるための判断だったと。 

今まで、顧客が買い手企業に対して抱いていた不満で、買い手企業の社内のリソースが不足しているがために対応できなかったものを解消させるのに必要な判断であったと。 

できれば買い手企業と基本合意を行なう前までに根回しを終了させ、了解を取り付けることができていれば、買い手企業も安心して基本合意に臨むことができるものと考えます。

M&A 従業員への告知はいつすべきか?

一般に、人は大きな変化を嫌うものです。 

M&Aで経営者が変わるということが判れば、従業員は、これからの自分の将来に大きな不安を抱くのが一般的です。 

不安を抱く社員が多くなれば、社内が浮足立ち、中には転職を考える従業員が出てこないとは限りません。 

M&Aがまだ買い手企業と交渉を始める当初の段階で社内に知れ渡れば、古参の従業員の中には面と向かって反対の意思表示をする人も出てきます。 

古参の従業員が中核的な業務を担っているような場合、意見を無視して強引にM&Aを推し進めれば退職や他の従業員を巻き込んだ争議になる可能性も否定できません。

 

したがって、M&Aでは従業員への告知は基本的に全ての契約が終わった後に告知することが賢明です。 

それまでは従業員や取引先に対してはM&Aは秘密にすべきです。 

M&Aはオーナー経営者が独断で意思決定すべきものなのです。 

 

ただ、買い手企業の中には、キーマンである幹部社員がM&Aを契機に辞めてしまうことを恐れて、基本合意前に彼らがM&A後にも引き続き会社に残ることを保証することを要求する買い手の会社もいます。 

この場合、基本合意前にキーマンとなる幹部社員にだけを個別に呼んでじっくり説明し、彼らの不安を払拭させることが必要になります。辞めないように説得するのです。

 

このとき、今回のM&Aが売り手会社の将来の明るい未来のために必要な決断だったのだということをキーマンに納得してもらう方向で説明すべきです。 

「いままで資金面、資源面の制約のためにできなかった新しい設備投資や新規事業に打って出るためには今回のM&Aが必要だった。 

また、大手資本の傘下に入ることで、当社がさらなる飛躍を遂げ、業界で生き残って行く確率が飛躍的に伸びたのだ。」ということを。

 

M&A後の職務内容や待遇については、大きな変化がないことを買い手企業と現在折衝中であることを述べ、安心させ社内に動揺が広がらないようにすべきです。 

キーマン以外の従業員に対しては、M&Aの最終契約が終了した段階で、報告することになります。