STEP4 M&Aの基本合意と買収監査

条件交渉とトップ面談が済み、交渉内容の大筋が買収金額も含め決まった段階で、これまでに合意に達した内容についてまとめる基本合意書を取り交わすことになります。

基本合意の後、専門家に委託して買収監査が買い手側からなされます。買収企業に隠れた瑕疵がないか等じっくり調査されることとなります。

・M&A 基本合意書って、どんな意味があるの?

・M&A 買収監査って、どんなことを調べるの?

・企業が負う法令順守義務とM&Aについて

・M&Aでは隠し事は致命傷になる

M&A 基本合意書は、どういう意味があるのか?

M&A交渉が大詰めを迎え、買収監査(デューデリ)・最終契約に先立ち、売り手企業と買い手企業との間で基本合意を締結することになります。 

基本合意は、買収監査(デューデリ)・最終契約に先立ち、今までの交渉過程の中で、相互に合意した内容を文書にして確認するものと言われています。 

最終契約に先立ち、M&Aの仮契約的な性質が含まれるものですが、この基本合意をもってただちにM&Aの契約が成立するものではありません。

 

一般に、この基本合意は、「法的拘束力はない。」と言われています。 

この意味するところは、「当事者間で最終契約を締結しなければならないという法的拘束力はない。」という意味です。 

他方、基本合意した種々の内容が法的拘束力を持たないという意味ではないので注意して下さい。仮契約と言えども、契約当事者間で合意に至った内容が入っているからです。 

契約当事者は、誠実に契約内容を履行する義務があります。

 

なお、基本合意書は、無期限に有効ではありません。 

有効期間がある期限付きの契約であるという特徴があります。

 

M&Aが株式譲渡ならば、基本合意書には、大きくは以下の3つの内容が含まれます。 

(1)基本条件

(2)今後のスケジュール

(3)双方が負う義務 

 

(1)基本条件 

譲渡株数、譲渡金額、役員退職慰労金の額及び最終監査の実施とそれによって譲渡金額の変更の可能性等の契約の基本条件の合意事項を記載して、当事者が今後譲渡契約を進めるかどうかを検討することとなります。 

譲渡株数や譲渡金額を基本契約までに決めてしまうのか、という疑問を持つ方もいるかもしれません。 

基本合意時点までに譲渡株数と譲渡金額は決めてしまうのです。 

譲渡金額と譲渡株数の問題が両当事者にとって一番の関心事項です。 

もし、これらが基本合意時点までに合意が得られていない状況で基本合意を締結すれば、最終契約時までに合意にならず契約が破談になる可能性を残したままで基本合意を締結するという危険性を負うことになってしまうからです。 

 

(2)今後のスケジュール 

基本合意後に行われる最終監査(デューデリ)の実施予定日、実施内容等を含め、最終契約までの道順を、日にちをきって決めてしまいます。 

そうしないと、金額が決定したのだからと、安心して途中、だらけてしまいかねません。 

有効期限までに最終契約に至らない場合、基本合意が失効することとなります。 

失効すれば、交渉の継続を希望する場合、再度期間延長の覚書を締結しなければならない羽目になります。 

 

(3)双方が負う義務 

基本合意に含まれる双方が負う義務内容として締結するものの代表的なものは、秘密保持義務、善管注意義務、排他的交渉権の付与の3つです。 

 

秘密保持義務は、基本合意を締結するまでに提出した資料や交渉等によって知り得た事実を他社に漏らさない義務を言います。 

 

善管注意義務は、善良な管理者としての注意義務を言います。 

基本契約締結後、売り手は買い手が不測の損害を与えないように、善良な管理者としての義務を負うこととなります。 

 

排他的交渉権は、基本合意書が期限付きの契約であるという性格上、その有効期間内に、売り手候補者に対して独占的排他的交渉権を付与するものです。

 

基本合意までは複数の買い手候補者に買収提案を行なってきましたが、基本合意締結後は合意締結先1社に絞って最終契約締結に向けて交渉を行なっていくこととなります。

M&A 買収監査は、どのようなことを調べるのか?

買収監査とは、詳細調査、デューデリジェンスとも言われ、企業が、企業のM&Aや大型不動産等を買収する前に実施される詳細な調査のことを言います。 

 

日本では、法律で瑕疵担保責任が規定されています。 

そこでは取引対象物に隠れた瑕疵があった場合、買主は売主に対して損害賠償でき、契約の目的を達成できない場合には契約解除ができる等の規定があります。 

しかし、実際に取引対象物に隠れた瑕疵があり、法律で損害賠償や契約解除が認められたとしても売主が無資力であった場合、損害賠償や契約解除は絵に描いた餅に過ぎません。 

また、損害賠償を買主に請求するには隠れた瑕疵の存在を立証する責任がある等、買主にとって使い勝手が悪いものです。 

そこで企業のM&Aや大型不動産などの買収金額が大きいものの買収に先立って、取引対象となる企業や不動産等に瑕疵があるのかどうかを詳細に調査してから、買収を行なうことが日本でも商習慣となってきました。

 

中小企業のM&Aの場合、買収監査は、公認会計士等の専門家や買い手企業自身によってなされます。 

M&Aは、売り手企業の従業員や取引先等に対して隠密にしないとならない性格上、従業員が会社にいない休日などを見計らって買収監査がなされます。 

また、売り手企業の顧問税理士の協力が必要な部分もありますから、売り手企業の顧問税理士事務所で買収監査がなされることも珍しいことではありません。 

 

買収監査の時、社内の経理担当者から事情を聴かないとならない場合が生じることもあります。 

経理担当者にM&Aを話しても問題とならないような間柄でしたらいいのですが、普通はそんなことはありません。 

そのような場合には、経営コンサルタントを入れるからと事前に従業員に説明して、買収監査に来社する専門家にも同様に口裏を合わせてもらうようにすることもあります。

 

売り手企業の社長は、買収監査で、かなり細かい点も突っ込まれて聴かれるのでストレスがたまるような思いをすることを覚悟して下さい。 

調査対象となる範囲は、大別して3つ、財務内容の調査、事業内容の調査及び法律面の調査です。 

 

どの会社にも、他社に見せたくない部分があったりします。 

経営者の能力が疑われる、内部規則のいい加減さを突かれてしまう、会社を経営者一族が食い物にしている状況が判ってしまうなど、隠しておきたい部分です。 

しかし、隠すような真似をしても会社を譲渡してしまえば現社長の手元から買い手企業に会社が移ってしまい、実態が買い手企業にオープンになります。 

あとになって判明するような場合、買い手企業からの信頼感が一挙に崩れてしまい、場合によっては損害賠償の対象となる可能性もあります。 

隠すような真似をせずに、包み隠さず現在の状況を買い手企業に出すことがM&Aの成功の秘訣です。

 

詳細調査で隠していたことが判明した場合、お互いの信頼感が崩れてしまいます。 

相手に知られたくないような事実でも、詳細調査が始まる前の基本合意までには買い手企業に報告しておくことをお勧めします。

企業が負う法令順守義務とM&Aについて

今回のVWの不正は、内部要因によるもの 

平成279月時点、世界有数の超巨大企業のフォルクスワーゲン(以下、VWという)でディーゼルエンジンの排気ガス問題で不正を行っていたことが米国で露見しました。 

米国内ではガソリンをエンジン内で爆発させるレシプロエンジンが主流でディーゼルエンジンは余り普及していませんでした。 

ディーゼルエンジンは本来、ヨーロッパ各国でダウンサイジングの潮流に乗り、コモンレールシステム等のクリーンディーゼルの技術革新がなされ爆発的に売れているものです。 

そのエンジンを米国に持って行って売ろうとしたとき、世界一厳しい排ガス規制を潜り抜けようとして、今回の不正がなされました。

 

 

❐コンプライアンス遵守違反 

今回のように、内部的要因で行われた不正は、コンプライアンス(法令順守義務)違反と指弾される可能性が高い。 

それによって企業のみならず、企業経営陣は不正の有無を知っていたかどうかにかかわらず法的、道義的責任をとらされる可能性が高い。 

現在の企業統治では、コンプライアンス問題は企業の死活問題にさえなる可能性が高いということです。 

今回の不正でVWの企業の屋台骨が揺らぐのかどうかは現時点では不明ですが、株価は不正発覚後3日で2割以上下落している。 

これは株主から経営責任を追及される可能性があります。 

さほど法令順守を企業が要請される状況にあるのが先進国の常識になっています。

 

 

❐中小企業では 

さて、中小企業ではどうでしょうか。 

多くの経営者は、コンプライアンス問題を遠い世界の話と思っている方も多いと思われます。 

しかし、ひとたび、自分の会社をM&Aで売却しようとしたとき、コンプライアンス違反が見つかれば、直ちにM&Aは流れてしまうことになります。 

コンプライアンス違反を犯している会社を買収して、コンプライアンス違反の責任を追及されても良いと考えている買収側企業などはありません。

 

 

❐法令違反はDDで発見される可能性が高い 

そしてコンプライアンス違反の事実を隠し通そうと思っても、買収監査(デューデリジェンス、DDと言います)が行われ、会計上、法令上からの見地から精査されるので、大概、コンプライアンス違反が発見される可能性が非常に高いのが現実です。 

また、万が一、DDで専門家によっても見つけられなかったとしても、M&A終了後にコンプライアンス違反の事実が発見されたとします。

 

 

❐表明保証により責任追及されるし、契約違反を主張される 

買収時点で売却側は買収側企業に対して表明保証を行っています。 

表明保証とは、貴社に対して提出された資料等には虚偽はないことを保証したものです。

 したがって、コンプライアンス違反があるにも拘らずないという虚偽の表明保証を行なえば、どうなるでしょうか? 

必ず、買収側から表明保証違反を原因とする責任追及がなされ、損害賠償や場合によっては契約違反を理由に契約の解除、無効を主張される可能性がある点を売却側経営者は充分の理解しておく必要があります。 

契約無効や解除と同時に損害賠償もなされる可能性が高いことも理解しておいてください。 

買収側に対して、虚偽の報告や事実を述べるようなことは、最終的に売却側が大きな責任追及の矢面に立たされることを理解しておいて損はありません。

 

今日のコンプライアンス(法令順守)違反は、それだけ厳しい責任を企業及び経営陣が負っていることを理解しておくべきと思われます。

M&Aでは隠し事は致命傷になります

会社を経営していると、法令違反とは言えないが、白日の下に曝したくないような事実があったりします。 

例えば、社内に身内のものが在籍し、職務内容が芳しくないにもかかわらず、他の社員よりも高給を得て、高い役職にあったりしている場合です。 

また、社員の待遇問題が表面化して、社外の組合に当該従業員が入り、会社に団体交渉等を要求してきているような場合も、これに該当するでしょう。 

これ等の内容は、コンプライアンス(法令遵守)違反に該当するものではありません。

 多くの中小企業はこのようなケースを抱えていたりすることもあったりします。

 

社内に身内がいるような場合、M&A後の処遇をどうするのか、M&A実行前のうちに考えできるだけ実行しておいた方が良いでしょう。 

M&A実行後に当該社員の処遇を巡り、会社と当該社員が争うようになった場合、アフターM&Aが出鼻からケチがつくことになります。 

会社と社員との間の待遇を巡り、外部の組合が交渉に入っているような場合、多くの買収会社はその事実を嫌がります。 

M&Aで、もめ事のある会社を、知らないで掴まされたと感じるからです。 

特に、組合があるような会社の場合、組合対策に長けているような会社を除いて、買収側は嫌がる傾向があります。

 

このような会社の内情とも言うべき事実も、M&Aに当っては、買収側に通知しておくべきでしょう。 

臭いものに蓋をしたまま、他人の会社に押し付けるようなことが許されるとでも思っているなら、それは大間違いだと思います。 

M&Aでは表明保証といって、買収側に説明した内容が事実と異ならないことを表明し保証することになっています。 

買収価額に影響を及ぼす可能性があるような場合、事前に買収側にその事実を継げておくべきです。

 

売却側は、このような事実を公に認めたくない心情があるかもしれませんが、アフターM&Aで買収側の新経営陣が来て経営に当れば、その事実が明るみになります。 

隠し事が後になって判明することになれば、その影響が企業評価額を押し下げるようなものであれば損害額の補填を求められることになります。 

隠し事が後になって判明することで、相互の信頼関係が崩れ、M&Aがご破算になる可能性が高いことをご理解ください。 

隠し事は、影響に隠し通すようなことはできないと腹を括り、事前にM&A支援業者にその事実を話しておくべきです。

 

なお、大事なのは、いつ買収先候補企業にその事実を告げるかです。 

遅くとも、デューデリジェンス(詳細調査)の前には相手側にその事実を告げておくべきと考えます。