還元利回り(キャップレート)を求める方法


還元利回り(キャップレート)を求める方法


不動産鑑定評価で利用される収益還元法。


不動産から生み出される純収益(NOI)から不動産価格を求めるときに使用されるキャップレートの求め方には、どのような方法があるのだろうか。

 


【総論】


キャップレートとは、不動産が生み出す収益から当該不動産の価格を求める時に使用する利回りで、不動産鑑定評価の分野における還元利回りとほぼ同意義であるともの判定される。

 

以下、還元利回り(キャップレート)という。


還元利回りとは、不動産を使用して得られる収益から当該不動産の価格を求める時に使用される利回りのことをいう。

 

不動産鑑定評価上、一期間の不動産収益を還元するのに使用する利回りと、DCF法で投資期間終了後の復帰価格を求める時に使用する還元利回りと各期の収益並びに復帰価格の現在価値を求める時に使用する割引率とは異なるものであるとされている。


実務上、対象不動産の種類、所在地の実情、資料収集の困難性等を反映して、還元利回りは数種類の方法の中から、より妥当性が高いもの(結果の妥当性並びに説明力の妥当性が高いもの)を採用することが多く、また併用される場合もある。


当社では、比準利回り等の資料を収集することの困難性、投資家の期待利回りの把握の困難性等を反映して定量的な分析が困難であることが多いことから、不動産投資家の投資採算性を反映することが可能な借入金と自己資金に係る還元利回りを求める方法を中心に、借入金償還余裕率による方法及び投資家の意検等の参考資料等で検証する方法を採用することが多い。

 

結果の妥当性に充分に留意すると共に、説明力の妥当性を確保している。

 

【還元利回りとは】


不動産鑑定評価等における収益還元法の分野で、不動産を使用して得られる収益から当該不動産の価格を求める時に使用される利回りを還元利回りと言う。


不動産鑑定評価は、不動産の経済価値を判定し、それを貨幣額で表示することを言い、求める価格の種類は、基本的に正常価格である。

 

正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格を言う。


この正常価格を求めるためには、一般に3つの視点から価格を求めるアプローチを行う。

 

供給者の視点に立つ原価法(積算価格)、市場で成立した価格に基づく市場の視点に立つ取引事例比較法(比準価格)並びに需要者の視点に立つ収益還元法(収益価格)である。


収益価格は需要者側の視点に立った価格であり、不動産の投資採算性を考慮した価格という性格を有する。

 

投資とは、現在支出して将来収入を得る行動をいう。

 

将来得られる収入の価値が投資金額より大きければ不動産投資家は投資により利益を得ることが可能となる。

 

したがって、不動産投資家は、投資金額より大きい収益を得ることを目的として投資を行うことで価値を創造することができることとなる。


還元利回りは、貨幣の時間価値(time value of money)と不動産という危険資産に投資することに対するご褒美としてのリスクプレミアムを含むものである。

 


【還元利回りと割引率の異同】

 

還元利回りと割引率は、ともに不動産の収益性を表すものであり、収益価格を求めるために使用されるものである。

 

しかし、両者には以下に述べるような違いがあるとされている。

 

還元利回りは直接還元法並びにDCF法の適用で1期間の収益から当該不動産の収益価格並びに復帰価格を求める時に使用する利回りを言い、将来収益の変動予測と予測の不確実性を含むものである。

 

割引率は、DCF法の適用で、予測期間における将来収益並びに復帰価格を現在価値に割り戻す時に使用するもので、還元利回りに含まれる将来収益の変動予測と予測に伴う不確実性のうち収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益並びに復帰価格の変動予測にかかるものを除いたものである。

 

割引率は、予測期間において予測した将来収益の流列並びに復帰価格を現在価値に割り戻す時に使用する割引率であるという性格上、当然に予測期間に発生する純収益と復帰価格の変動予測部分は除外されることとなる。


 

【還元利回りを求める方法】

 

還元利回りを求める方法としては、不動産鑑定評価基準は、類似の不動産の取引事例との比較から求める方法、借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法、土地と建物に係る還元利回りから求める方法、割引率から求める方法及び借入金償還余裕率から求める方法を例示列挙している。

 

上記以外にも投資家の意見を参考資料として活用することができるとともに、整備された不動産投資インデックスを活用して還元利回りを算定するための参考資料として活用することが可能である。

 

なお、還元利回りの査定に当たっては、以下の点に留意すべきである。


△ 投資対象として比較可能な他の資産の収益性

△ 金融市場での運用利回りの動向

△ 不動産が所在する地方別・用途別・品等別に形成される利回りの動向

△ 市場の実勢を反映した利回りとして求める必要性があること

△ 市場で利用される利回りには、グロス利回り、ネット利回り等

△ 多種のものがあるが、使用するに当たっては種類を統一する必要があること。等


以下、各方法について詳述する。

 


(1) 類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

 

この方法は、対象不動産と類似する収益性不動産の取引事例に係る利回りが多数収集可能な場合に有効である。

 

多数収集した取引事例には特殊な取引事情を含むものや取引当事者間の特殊な関係が認められるものが存する場合もある。

 

これらに係る取引利回りには正常な事情に補正可能なものを選択し適正に補正を行う必要がある。

 

時間の経過に応じて市場の状況が変化する場合も多い。

 

市場の実勢を反映した利回りに修正する必要があると認められる場合には的確に時点修正を行う必要がある。

 

不動産は、所在する地方別・用途別・品等別に価格が形成される傾向があるため、地域要因の比較、個別的要因の比較等の要因比較を行い適正な還元利回りを求める必要がある。


この方法は、市場の実勢を収益価格に反映させる面で有効である。

 

他方、市場の実勢に価格が引きずられる傾向を有する。還元利回りの取引事例比較法であるため、市場の動きに左右され資料収集の時間的な制約があるため市場の後追いとなる傾向がある。

 

また、市場が熱くなっているときは熱い価格が得られ、冷めた価格の時は冷めた価格となる傾向があるという難点を有することに充分に留意すべきであると思料される。
 


(2) 借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

 

この方法は、投資家の資金調達方法に着目して還元利回りを求める方法である。

 

この場合、不動産投資家は標準的な資金調達能力を有する投資家を想定すべきであり、特別な調達能力や資力を有する者を想定すべきではない。

 

不動産投資に係る利回り並びに資金調達に際して調達先の金融市場の動向を反映させることが可能であるという特徴がある。

 

借入金に帰属する純収益について平準化を行う場合には、借入金が通常一定期間までに返済され、借入期間経過後には元本がゼロになることを考慮して還元利回りを年賦償還率として求める。

 

他方、対象不動産に係る初年度純収益を採用する場合、借入金の返済条件により借入金還元利回りは必ずしも年賦償還率とはならないことに留意すべきである。


この方法の基本式は以下の通りである。


R = Rm × Wm + Re × We


R :還元利回り
Rm:借入金還元利回り
Wm:借入金割合
Re:自己資金還元利回り
We :自己資金割合


※不動産鑑定評価の場合、借入金の節税効果は考慮外としている。

 

理由として、借入主体により借入金の条件が異なることから、借入主体により資産価格が異なることを防ぐためと説明されている。


当社で一般的に採用する還元利回りを求める式である。

 

ファイナンスの世界で一般的に使用される方法であり、金融機関への説明性も高く、充分な利回り感を評価主体が背後に持って使用することにより結果の妥当性も維持することが可能かと思われる。

 

 

(3) 土地と建物に係る還元利回りから求める方法

 

この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素に係る還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求める方法である。


この方法の基本式は以下の通りである。

R = Rl × Wl + Re × We


R :還元利回り
Rl:土地の還元利回り
Wl:土地の価格構成割合
Re:建物等の還元利回り
We:建物の価格構成割合

 

不動産が土地・建物が結合して一体のものとして収益を獲得するというものである点、土地と建物の還元利回りが別々に求めることが可能なのであるのかという疑問を呈される可能性が高い点等から、現在この方法を採用する場合は少ないものと思料される。


10年程前の方法といってよい。
 


(4) 割引率との関係から求める方法

 

この方法は割引率と還元利回りの関係から対象不動産の還元利回りを求めようとするものである。


還元利回りが将来収益の変動予測並びに予測の不確実性を含むものであるのに対して割引率はそれらを含まないものである点に着目した手法である。

 

この方法は、純収益が永続的に得られる場合で、かつ純収益が一定の趨勢を有するものと想定される場合に有効である。

 

この方法の基本式は以下の通りである。

 

R = Y − g

R:還元利回り
Y:割引率
g:純収益の変動率

 

還元利回りと割引率を分離して、似かよっているが別のものであるという考え方に立脚した考え方であると思料される。

 

しかし、還元利回りが、純収益が一定であるものとして使用する永久還元式の場合、割引率を無限等比級数の和の公式を利用して整理したものであり、また、上記ゴードン式も、定率成長モデルの無限等比級数の和の公式を利用して整理したものである以上、還元利回りと割引率との両者には差がないものと考えられる。

 

したがって、両者に差をつけるということは和の公式を利用して整理したときに割引率に変化が生じ変質したものと考えざるを得ない点、コーポレートファイナンスでも割引率と還元利回りの間に差を設けていない点等から、やや違和感を感じざるを得ない。


 
(5) 借入金償還余裕率の活用による方法

 

この方法は、借入金還元利回りと借入金割合を基に借入金償還余裕率(DSCR)を用い得て対象不動産から生み出される純収益から借入金償還の安全性を加味して還元利回りを求める方法である。


この方法は、投資家の資金調達に着目して対象不動産から得られる収益のみを借入金の返済原資とした場合に、安全性を加味できることから有効である。


この方法の基本式は以下の通りである。

R = Rm × Wm × DSCR

R :還元利回り
Rm:借入金還元利回り
Wm:借入金割合
DSCR:借入金償還余裕率


この方法は、自己資金還元利回りを考慮していない。

 

したがって(2)の方法に比し還元利回りがやや低位に求められる傾向があるものと思料される。

 

しかし、借入金返済原資となるのは基本的には対象不動産から得られる収益であり、収益が金融機関への返済額の何倍あるのかを示すDSCRを基礎としていることから他の手法により求めた還元利回りを検証する面からも妥当性を有するものと思料される。


以上の理由から、当社では、(2)の方法と併用して還元利回りの検証方法として利用している。

 

 

(6) 投資家等の意見の活用

 

この方法は、投資家の期待利回り等をアンケート等の方法で収集した公表資料を活用する方法である。

 

代表例としては、財団法人日本不動産研究所が定期的に発行している「不動産投資家調査」がある。

 

オフィスビル、レジデンス、店舗、ショッピングセンターや倉庫等について機関投資家等の市場参加者の期待値に関するアンケート解答をまとめたものである。

 

なお、期待利回りとは、投資価値の判断に使われる還元利回りを指している。通常、初年度純収益(NOI)を期待利回りで割ったものが投資価値となる。


この方法を採用する場合は、以下の点に留意すべきである。

 

△ 資料収集時点と評価時点とのずれが発生する可能性がある点。
△ 投資家の期待利回りであることから、市場で成立した利回りでないことから、投資家側の視点に偏っており市場の実態とずれが生じる可能性がある点。

 

 

(7) 整備された不動産インデックスを活用する方法

 

この方法は公表された各種不動産インデックスを参考資料として活用する方法である。

市場で成立した資料をもとにしている点では説得力を有するものであるが、以下に述べるような注意点が挙げられる。

△ 公表不動産インデックスの作成方法の不統一がある点。
△ インデックス作成のための時間的なずれが生じている点。
△ 不動産インデックスは市場の標準的な水準を示しているに過ぎないことから対象不動産の個別性の反映に難点がある点。

 


以上


使用資料

・新要説 不動産鑑定評価基準(住宅新報社)
・入門ファイナンス 若杉敬明著 (中央経済社)等

 

 

 

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